松井正一・栃木県議会議員が八ッ場ダム事業費増額同意議案について質問した

2016-12-12

●八ッ場ダムの事業費が2.5倍に増えた

国土交通省関東地方整備局は、2016年8月12日に「「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」の変更について」というタイトルで記者発表をしました。

「今般、同事業について、特定多目的ダム法第4条の基本計画を変更することとし、本日、同条第4項の規定に基づき、関係都県知事及び関係利水者の意見をお聴きする手続を開始します。」とし、変更内容は、事業費約4600億円 を約720億円増額し約5320億円に変更するものです。なお、工期は2019年度で変更なしとされています。

国土交通省は、関係都県知事の賛成意見を11月初旬に得、11月22日に関東地方整備局事業評価監視委員会からもお墨付きを得ており、近々計画変更の公示をするものと思われます。

八ッ場ダムの事業費は次のように変遷しています(出典:「八ッ場ダムの建設に関する基本計画」の変更について)。
1986年7月10日 基本計画策定 約2110億円
2004年9月28日 第2回変更 約4600億円
2016年      第5回変更 約5320億円

4600億円と比べて15.6%程度の増額です。30年前の当初見積りの約2.5倍に増えています。

治水経済調査マニュアル(案)のp18〜19の第 11 表 治水事業費指数(2005年度基準)で建設費の指数を見ると、河川事業の場合、1986年度は89.7で2014年度は108.4ですから、建設資材や労務費が30年間で2割ほど上がったという説明はつきますが、事業費が2.5倍に増えるという説明はつきません。当初見積りが不当に安かったということになると思います。

「公共事業は小さく産んで大きく育てる」という方針があったものと推測されます。

ちなみに、当該議案書によれば、栃木県が負担する八ッ場ダムの建設負担金は、約10.4億円でしたが、今回の変更により、約1.6億円増(約15.4%増)の約12億円となります。

●栃木県議会で松井正一議員が八ッ場ダム事業費増額問題について質問した

2016年10月7日に栃木県議会予算特別委員会が開かれ、松井正一委員(民進党・無所属クラブ)から次のような議案質疑がありました。

◎松井正一委員
八ッ場ダムの建設に関する基本計画の変更についてうかがいます。
今般、特定ダム法(ママ)第4条第4項の規定に基づきまして、国土交通大臣から意見照会がなされ、八ッ場ダムの建設に関する基本計画の変更について、当該ダムにおける治水対策に関連する直轄負担金を負担している本県が、工期短縮に努め、早期完成を図ること、徹底したコスト縮減に努めること、の2点の意見を付して、同意するための議案が上程されております。

八ッ場ダムの建設過程については省略をいたしますが、今回の基本計画の変更に関しては、群馬県と茨城県においても、県議会に同様の議案が上程されており、ダム本体が造られる群馬県においては、県議会各会派よりこれ以上の増額や工期延長はないのかといった質問が出されており、大沢知事も「すべて国の言うとおりにしてきたつもりではない。今後の増額問題にも県として意見はしっかりと述べていく。」と強調しています。

本県においても、約1億6000万円の負担金増加となるため、群馬県や茨城県と同様に県民への説明責任を果たす観点から、これ以上の増額や工期延長はないのかということについて、国に対して意見(ママ)を求めていくべきであり、北関東3県の連携も含め、慎重な対応をしていくべきと考えます。

そこで県では、今回の基本計画の変更内容、特に事業費の増額についてどのように検証してきたのか、また、基本計画の変更に同意するに当たり付する意見について、どのような判断で作成したのか、知事におうかがいいたします。

◎福田富一知事
八ッ場ダムは、利根川流域の洪水被害の軽減と首都圏の都市用水の開発を目的とする極めて重要な施設であることから、本県を始め、ダム建設に関係する1都5県は、一丸となって八ッ場ダムの1日も早い完成を要望し、併せて、事業に当たっては、徹底したコスト縮減を図るよう機会あるごとに強く要請をしてきたところであります。

このような中、国からは事業費の精査を行ったところ、コスト縮減の工夫をしても、なお増額せざるを得ないとの見込みが示されました。

1都5県といたしましては、この事業費の増額提示を極めて遺憾としつつも、事業の重要性に鑑み、増額の要因と妥当性を調査する合同調査チームを編成し、各種書類や建設現場での調査などにより、増額内容、理由、金額の妥当性につきまして、厳正に確認を行ったところであります。

その結果、今回の増額要因は、昨今の労務資材費の上昇や消費税率の変更など、社会経済情勢の変化、新たな技術指針に基づく地すべり対策の追加や掘削後明らかとなった地質条件による掘削費用等の増額などによるものであり、1都5県の総意として、事業費増額はやむを得ないものであることを確認いたしました。

また、国からは今回の事業費の増額は、現時点で想定されるすべての要因を考慮し、精査した結果であると聞いており、さらに、工期延伸のリスクについても確認を行った上で、国から工期内完成に向けて取り組んでいく旨を確認したところであります。

したがいまして、これらの調査結果を受けて、本県といたしましては、工期短縮に努め、早期完成を図るとともに、事業費につきましても更に徹底したコスト縮減に努めるよう意見を付して同意することとしたところでありますので、ご理解を願いたいと思います。

◎松井正一委員
ここでは要望ということになりましたので、私から要望を添えて知事の方にお願いをしていきたいと思います。
ただいまの丁寧な検証の過程も今の答弁の中で明らかになりました。
1都5県の総意ということもありまして、色々な判断もあったことも理解されます。

案内のとおり、今回も含めて5回ほど基本計画の変更がございました。その過程においては、事業費の増又は色々なことがありますが、直轄負担金ということを考えれば、河川法63条に基づく負担割合に則しまして、想定氾濫区域図、これはあのう、国の方にちょっと照会を掛けて、調べてまいりましたけども、カスリーン台風等を想定して、利根川の最大水位の標高地点を比較した場合に低い地点をすべて面積として網羅していくということから、県内におきましても、足利市、佐野市、現在は栃木市になりましたが、その該当区域が面積として計算されているということも明らかになりました。

いずれにいたしましても、知事の方にですね、一番要望いたしたいと思いますのは、私も質問で触れましたが、これ以上工期、事業費が増えないということが1都5県で確認をされてきたということでありますが、なお、栃木県といたしましても、他の都県の皆様と協調してですね、国の方に声高にそのことをゆっていただきたいということです。

それから、今後の具体的な進捗に当たりまして、これはテクニカルなことになりますから、県土整備部長の方も含めてという要望になるかと思いますが、これまでもいくつかの議会の中で、この議案に関して触れられたときには、該当地域にも漏れなく啓発もしてきたということでご答弁もいただいております。

今回のまた変更に当たってですね、具体的なことが進んでいくに当たりまして、必要な啓発等につきましては、該当地域の皆様にも啓発をしていただきたいということを私の方から要望させていただきたいと思います。

八ッ場ダムの今後の事業の推移に向けましては、各都県議会においても、色々な議論があるかと思いますので、我が会派といたしましても、各都県議会の今後の議論の推移なども見守りながら、必要な調査、また対応をしていきたい、こんなふうに思っております。


●だから言わないこっちゃない

「八ツ場ダム事業基本計画の第4回変更計画に関する知事意見への議決はだまし取られた」に書いたとおり、3年前の2013年10月に栃木県議会は八ツ場ダム事業基本計画の第4回変更計画を承認しました。

同年9月30日の県土整備委員会において、赤上尚・砂防水資源課長は、「工期は4年間おくれるということでございますが、今後実施される工事の内容につきまして、さらなるコスト縮減を国に求めてまいりまして、この4,600億円の中で必ず終わるように、あらゆる機会を通じて求めていきたいと考えておりますし、国もそのようにおさめるという計画づくりをしておるところでございます。(「わかりました」の声あり)」と発言し、こうした発言を前提として議案は可決されました。

しかし、私は、「残事業費900億円で完成できるとは思えません。」と書きました。

案の定、2016年4月になって国は関係都県に増額のための計画変更をすると言ってきました。

だから言わないこっちゃない、と言いたくなります。

今回も知事は、「国からは今回の事業費の増額は、現時点で想定されるすべての要因を考慮し、精査した結果であると聞いており、さらに、工期延伸のリスクについても確認を行った上で、国から工期内完成に向けて取り組んでいく旨を確認したところであります。」と答弁しました。第4回変更のときと基本的に同じ内容です。

知事と県議会は、いつまで同じ猿芝居を繰り返すつもりでしょうか。

●国は最後の増額だとは言っていない

八ッ場ダムの事業費の増額は、これで最後と誤解している人もいるかもしれませんが、松井議員の発言によると、群馬県の大沢正明知事は「今後の増額問題にも県として意見はしっかりと述べていく。」と述べたそうであり、同知事は、増額は今回が最後ではないと認識しているということです。

1都5県からの質問と国土交通省の回答を見ると、「関係機関との調整により見込まれる変更増はこれですべてか。」という質問に対し、知事が答弁したように、国土交通省は「現時点において事業費の増額につながると思われるものはすべて見込んでいる。」と回答しています。

国土交通省の回答には、「現時点において(すべての増額要因を盛り込んだ。)」と書かれており、将来は増額することもあるという意味になります。これが最後の増額だ、などと一言も言っていません。

●増額要因は以前から存在した

八ッ場ダムの事業費が4600億円で済まないことは、当サイト(「八ッ場ダムで栃木県内の死者を減らせるのか」)でも以前から指摘していました。

地すべり対策に要する費用の141億円の増額の内訳は、地すべり対策96億円、代替地安全対策44億円です。現計画では、地すべり対策はわずか6億円、代替地安全対策はゼロでしたから、本来3年前の第4回の計画変更までに見込んでおくべき経費ですが、工期延長+事業費増額という変更案では都県の賛成が得にくいので、増額問題は伏せておいたというのが真相でしょう。

今回も720億円の増額にとどめていますが、一挙に1000億円を超える増額を提示すると都県の賛成が得にくいという判断から、小出しにしたものと思います。

「埋蔵文化財対応等による変更」で88億円の増額ということですが、事業予定地が埋蔵文化財の宝庫であることは、何年も前から分かっていたことで、今更持ち出すのはふざけた話です。

基礎岩盤の掘削量が小さすぎることも指摘されていたことです。

●今後も増額する要因はいくつもある

国は、現時点においてすべての増額要因を盛り込んだとは言えません。

例えば、現時点で見込めるはずの東京電力への減電補償が含まれていません。東京電力への減電補償額は130〜200億円に上ると「八ッ場あしたの会」は試算しています。

国は第5回変更で地すべり対策工事の箇所を6箇所としていますが、そんなもので済むはずがありません。

上記問答集のp82を見ると、ダム検証時に「(地すべり対策を要する箇所数は)考えられる最大の範囲として想定し・・・新たに8箇所で対策が必要となる可能性がある」とされたにもかかわらず、そのうち5箇所については、明確な理由も示さずに新たな対策が不要であるとしてしまいました。不当な判断だと思います。

更なる増額要因の一つは、移転対象となった土地の代替地の整備費用です。

代替地の整備費用は、2016年度までに130億円近くになっています。一方、代替地の分譲による収入は約30億円と推定されます(「八ッ場あしたの会会報」2016年11月発行p4)。差し引き100億円程度の赤字が見込まれ、それを事業費に上乗せすることが予想されます。

●合同調査に意味はない

福田知事は、「増額の要因と妥当性を調査する(他県との)合同調査チームを編成し、各種書類や建設現場での調査などにより、増額内容、理由、金額の妥当性につきまして、厳正に確認を行った」と言いますが、意味はありません。

1都5県が「これ以上増額するなら、八ッ場ダムに反対する。」と言える選択肢があるなら、合同調査にも意味がありますが、結局は拒否するつもりがないのですから、合同調査をする意味はありません。

2004年に提訴した栃木3ダム訴訟でも、栃木県知事は、ダムの治水負担金は、国の言いなりになって払うしかないのだという姿勢に終始しました。

ところが今回の負担金増額問題では、国の言いなりになって増額を受け入れるわけではないというポーズを一般県民に示したいので、合同調査に加わったのでしょうから、矛盾しています。

八ッ場ダム事業の受注企業に栃木県職員OBが再就職していることもあり(2012年1月6日付け赤旗記事「八ツ場ダム調査業務など 天下り法人が52%受注」)、栃木県知事が同事業に異議を唱えるつもりは最初からありません。

●知事の説明は前提が成り立たない

福田知事は、「八ッ場ダムは、利根川流域の洪水被害の軽減と首都圏の都市用水の開発を目的とする極めて重要な施設であることから」と言いますが、この前提は成り立ちません。

鬼怒川を例に考えてみます。

2015年9月洪水で、国土交通省は、鬼怒川上流4ダムは約1億m3の洪水を貯留したと宣伝します。
http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/kyoku_00000728.html

確かに、八ッ場あしたの会の計算(「鬼怒川水害における上流4ダムの治水効果」のページ)によっても、鬼怒川上流4ダムは、ダム地点(利根川合流点から134km)で、約3000m3/秒の流量を約800m3/秒にまで削減したのですから、約73%の流量削減率効果があったことになります。

ところがダム地点から123km下流の鬼怒川水海道地点(11km)では、4180m3/秒の流量を4000 m3/秒にまで削減したにすぎないので、4.3%の流量削減効果しかなかったことになります。

ダムの効果は、下流にいくほど減衰するものですし、流量観測の際にも5%程度の誤差はあるようですから、下流域では「二階から目薬」程度の効果しかないのです。

鬼怒川上流4ダムは、1億2530万m3の洪水調節容量を持ち、1/110確率の降雨があったときに1/45確率の洪水が発生し、約1億m3もの洪水を貯留し、ダム地点で流量を約73%も削減したにもかかわらず、常総市での堤防決壊と溢水で大氾濫が起きたということは、上流にどんなに立派なダムをたくさん造っても、下流の水害を防げないということです。これが鬼怒川大水害の教訓です。

「首都圏の都市用水の開発」について考えても、八ッ場あしたの会の「水道用水と工業用水の動向(東京都、利根川流域、全国)」によれば、利根川流域6都県の水道用水の1日最大給水量は1992年度をピークに、ほぼ減少の一途をたどっています。1992年度には1418万m3/日だったものが、2014年度には1186万m3/日にまで減少しています。22年間で約16%減少しています。

今後は、人口減少と節水機器の普及等により更に減少していくことが確実視されています。

「首都圏の都市用水の開発」が今後必要ないことは明らかです。

国土交通省は、東京都などの水需要が増えるという前提で事業を進めているのですから、重大な事実誤認に基づいていることになります。

地盤沈下についても1997年ころから沈静化しているという事実を国は無視しています。

国は、八ッ場ダムが完成しないと暫定水利権が安定化できないと言いますが、長年にわたって安定的に取水ができてきた実績を無視した机上の計算にすぎません。

水道当局が緊急にやるべきことは、水道施設の老朽化への対策であり、新規水源の確保でないことは、余りにも明らかです。

●栃木県は他の都県と事情が違う

福田知事は、「本県を始め、ダム建設に関係する1都5県は、一丸となって」とか「1都5県の総意として」とか言いますが、一丸となってはいけないでしょう。

栃木県は、他の都県と違って、利根川が貫流していないし、利根川と接してもいないのですから、八ッ場ダムの効果が栃木県に及ぶはずがありません。

2009-10-20 朝日新聞群馬版によると、八ッ場ダムに係る負担金について、「栃木県以外の5都県は水没関係地域の生活再建のため、水源地域整備事業に計463億円、利根川・荒川水源地域対策基金事業に計178億〜246億円を負担する。」といいます。

つまり栃木県は、八ッ場ダムについては、水源地域対策特別措置法に基づく水源地域整備事業の負担金も負担しないし、利根川・荒川水源地域対策基金事業の負担金も負担しません。栃木県が八ッ場ダムから著しく利益を受けないことの証拠だと思います。

こうした特殊事情のある栃木県が他の都県と歩調を合わせて行動する必要はありませんし、歩調を合わせてはいけないはずです。

松井県議も「北関東3県の連携も含め」とか「1都5県の総意ということもありまして、色々な判断もあったことも理解されます。」とか「他の都県の皆様と協調して」と発言していますが、栃木県は、利根川が貫流している、又は利根川と接している他県とは事情が違うのですから、そう簡単に「連携」とか「総意」とか「協調」ということにはならないはずです。

質問する方も答弁する方も栃木県の地理的状況を的確に認識していないのですから、まともな質疑になるはずがありません。

この問題は、南スーダンへの自衛隊派遣問題と似ています。

安倍晋三首相は、「治安(の悪化)を理由に撤退した国はない(だから日本も撤退しない。)」(2016年12月7日の志位和夫氏との党首討論)と言いますが、南スーダンに派兵している他国と同列に議論してはダメでしょう。

海外での武力行使を禁ずる憲法を持つ国と戦争をする国では事情が違うのですから、自衛隊が外国軍隊と同調できるはずがありません。

●なぜ「丁寧な検証」と言うのか

松井県議が「丁寧な検証」と言う理由が分かりません。「丁寧な検証」と言うからには、検証に説得力を認めるということでしょう。

確かに合同調査の報告書は分厚いのかもしれませんが、栃木県にとっては、なぜ栃木県が「著しく利益を受ける」のかが検証されていなければ意味がありません。今回の調査でその検証はなされていないと思います。

●なぜ「河川法63条に基づく負担割合に則しまして」と言うのか

松井県議は、「河川法63条に基づく負担割合に則しまして」と言いますが、河川法第63条は以下のとおりです。

(他の都府県の費用の負担)
第63条  国土交通大臣が行なう河川の管理により、第六十条第一項の規定により当該管理に要する費用の一部を負担する都府県以外の都府県が著しく利益を受ける場合においては、国土交通大臣は、その受益の限度において、同項の規定により当該都府県が負担すべき費用の一部を当該利益を受ける都府県に負担させることができる。
2  国土交通大臣は、前項の規定により当該利益を受ける都府県に河川の管理に要する費用の一部を負担させようとするときは、あらかじめ、当該都府県を統轄する都府県知事の意見をきかなければならない。
3  都府県知事が行なう河川の管理により、当該都府県以外の都府県が著しく利益を受ける場合においては、当該都府県は、その受益の限度において、当該都府県が負担した当該管理に要する費用の一部を、当該利益を受ける都府県に負担させることができる。
4  都府県知事は、前項の規定により当該利益を受ける都府県に河川の管理に要する費用の一部を負担させようとするときは、あらかじめ、当該利益を受ける都府県を統轄する都府県知事に協議しなければならない。

河川法第63条に負担割合が具体的に書かれているわけではありません。

ダム下流の都府県が「著しく利益を受ける場合」に「受益の限度において」負担させることができると書かれているだけです。

「河川法63条に基づく負担割合に則しまして」という表現は県民を誤解させる表現であり、松井県議がなぜそう表現したのか理解できません。

●国に聞いた、だから何なのか

松井県議は、次のように言います。

直轄負担金ということを考えれば、河川法63条に基づく負担割合に則しまして、想定氾濫区域図、これはあのう、国の方にちょっと照会を掛けて、調べてまいりましたけども、カスリーン台風等を想定して、利根川の最大水位の標高地点を比較した場合に低い地点をすべて面積として網羅していくということから、県内におきましても、足利市、佐野市、現在は栃木市になりましたが、その該当区域が面積として計算されているということも明らかになりました。

だから何なのかは言いません。

国土交通省に照会を掛けて説明を聞いたのは良いことですが、その説明で納得したのかどうかが問題です。

松井県議は何も言わないのですから、そして本会議でこの議案に賛成した(ちなみに、反対したのは野村節子議員ただ1人)のですから、納得したのだと思います。

なぜ納得してしまうのでしょうか。

河川法第63条第1項を読んでいないからだと思います。また、河川法に基づくものに限らず、受益者負担制度を理解していないからだと思います。

上記のとおり、同項には、「著しく利益を受ける場合」と規定されています。

栃木県が「著しく利益を受ける」ためには、栃木県が利根川の洪水によって著しく損害を受けるが、八ッ場ダムによってその損害が著しく軽減されること、が論理的に考えて必要です。

ところが、栃木県はそもそも、利根川の洪水で損害を被ってきておらず、今後も、1/200確率程度の降雨では利根川の洪水で損害を被るとは考えられないのですから、八ッ場ダムによる被害の軽減の効果を考える余地がありません。

●想定氾濫区域図だけで納得するのは短絡だ

知事も栃木3ダム訴訟の被告第4準備書面(2005年11月17日)p3で次のように主張しています。

八ッ場ダムは、「上流のダム群」の一つとして、上記6,000m3/秒の洪水調節の一翼を担うものとされているところ、利根川の想定氾濫区域には、上記八斗島地点の下流域である栃木県の足利市、佐野市、藤岡町の各一部の区域が含まれている(乙64)のであるから、八ッ場ダムの建設は、同県内の上記区域における洪水被害の軽減に寄与するものとして計画されているものである。これが、八ッ場ダムの建設により栃木県が著しく利益を受けるものとし、その受益の限度において、河川法60条1項により群馬県が負担すべき費用の一部を栃木県に負担させるべきであるとの、同法63条1項による国土交通大臣の判断を、同県が是認している理由である。

上記準備書面のp4には次のように書かれています。

栃木県の区域の一部が前記のとおり想定氾濫区域に含まれていることから、八ッ場ダムの建設により同県が著しく利益を受けるとの同大臣の判断は是認すべきであり・・・

要するに、「栃木県の区域の一部が想定氾濫区域に含まれている」から「同県が著しく利益を受ける」という結論を一気に導くのです。

何たる思考停止、何たる短絡でしょうか。

知事は、「栃木県の区域の一部が想定氾濫区域に含まれている」ということを聞いただけで負担金の支払義務があることに納得してしまうのです。

そもそも「栃木県の区域の一部が想定氾濫区域に含まれている」ことが妥当なのか、仮に妥当だとしても、その区域の面積が八ッ場ダムの効果によってどれだけ縮小するのかを考えることは当然だと思うのですが、知事は、そのことを全く考えないのです。

●常識で考えてほしい

有史以来、利根川の氾濫水が足利市、佐野市、旧・藤岡町に到達したことはありません。佐野市と栃木市にはそのことを公開質問で確認しています(「栃木市長と佐野市長から回答を回収した」を参照)。

利根川の氾濫水が約7km離れた足利市まで到達するということは、利根川と渡良瀬川がつながって1本の太い川になってしまうような事態になるということです。

そのような事態は、カスリーン台風(1947年9月)のときでさえ発生しておらず、今後もカスリーン台風洪水の発生確率(1/200確率の降雨時の洪水にほぼ等しいとされる。)程度で発生するはずがありません。

実際、国土交通省は、利根川上流ダムの存在と1/200の降雨確率を前提に計算した利根川水系 利根川・広瀬川・早川・小山川浸水想定区域図【詳細版】(2005年3月及び2006年7月作成。いわゆる「ハザードマップ」)では、足利市と佐野市は、浸水しないことになっています。

1/200確率の降雨でも、利根川の洪水が足利市と佐野市に来ないことを国土交通省自身が証明しているのです。

確かに、旧・藤岡町には浸水することになっています。ただし、その浸水区域は約2.5km2の田園地帯であって、人家は少ないのですから、被害額はそう大きくならないはずです。

旧・藤岡町に浸水するシミュレーションは、机上の計算にすぎないと思いますが、計算過程が分からないので、百歩譲ってこの図を是認するとしても、ハザードマップにおける旧・藤岡町の浸水面積は、上記のとおり約2.5km2であり、負担割合算出の根拠とした「想定氾濫区域図」に示された栃木県内の浸水面積約24km2の約1/10ですから、栃木県の負担額は、12億円ではなく、多くともその1/10の約1.2億円に縮小されなければなりません。

常識的に考えれば、利根川の氾濫水が栃木県に到達することはおよそ考えられませんから、栃木県が八ッ場ダムの負担金を12億円も負担することに知事や議会が賛成することはあり得ない判断です。

松井県議は、「カスリーン台風等を想定して、利根川の最大水位の標高地点を比較した場合に低い地点をすべて面積として網羅していく」という浸水面積の計算の仕方だけを聞いて納得したようですが、河川法第63条第1項に規定する負担金が受益者負担金であり、同項に「著しく利益を受ける場合」に「受益の限度において」と規定されていることに照らせば、現実性を無視して「標高が計画高水位より低い場所はすべて浸水する潜在的な可能性がある」という考えの下に浸水面積を決めることは誤りだと私は思います。

「計画高水位と同じ標高まで浸水する」という考え方は、現実の水害の起き方を無視しています。浸水範囲を決める要素は、標高だけではありません。氾濫水の量や地形も大きな要素です。

検証していないので断言はできませんが、2015年9月の常総市での水害で考えても、若宮戸や上三坂の溢水地点や決壊地点の計画高水位の標高より低い場所がすべて浸水したのかと言えば、そうではないと思います。

とはいえ、人間は未来の出来事を確実に予測できないので、数千年あるいは数万年に1回くらいは、標高が計画高水位より低い場所はすべて浸水するような大水害が起きると仮定します。

しかし、そうした極めてまれな確率で利益を受けるとしても、それは「滅多に利益を受けない」ということですから、「著しく利益を受ける」とは言えません。

受益者負担金を算出する際に、「計画高水位と同じ標高まで浸水する」と想定することは、現実の発生確率を無視しており、受益者負担制度の趣旨から外れているので誤りです。

●国土交通省の言い分を見てみよう

栃木3ダム訴訟で国土交通省が宇都宮地裁に提出した調査嘱託回答(2008年4月9日)には、利根川の治水に関する都県の負担割合に関する国の説明が書かれています。

建設大臣は、1981年3月2日に栃木県知事に対して、利根川上流部の多目的ダム建設事業費(洪水調節に係るものに限る。)都県別負担割合を通知していること、栃木県の負担割合は1.44%であることが書かれています。

「想定氾濫区域図」を用いて都県の費用負担割合を計算したことについては、次のように書いています。

想定氾濫区域は計画高水位と沿川の地盤高をもとに作成しており、様々な洪水パターンにより変化しないことから、ダムの洪水調節に係る各都県の費用負担割合を算定する際の受益範囲とすることは合理的であると考えています。

確かに、地盤高を基に浸水範囲=受益範囲を決めれば、「様々な洪水パターンにより変化しない」ことは事実です。

しかし、河川法第63条第1項が「著しく利益を受ける場合において」「受益の限度において」という要件を規定していることを無視してもよいことにはなりません。

国は「様々な洪水パターンにより変化しない」ことを重視したために、河川法の定める「著しく利益を受ける」という根本的な要件を無視したのです。

しかも、国は、その受益範囲が八ッ場ダムによってどれだけ縮小するのかを説明していません。

次に、国土交通省は、次のように説明します。

利根川の洪水により浸水被害を被る可能性があるとした栃木県の区域は、八ッ場ダムを含め利根川上流ダム群の洪水調節によって利根川の洪水流量の低減が図られることにより、水害発生が防除され、また、水害が発生した場合は被害軽減されることから、治水上の利益を受けることになります。

八ッ場ダム建設費の一部を栃木県が負担する根拠を裁判所が国土交通省に質問しているのに、「八ッ場ダムを含め利根川上流ダム群の洪水調節によって利根川の洪水流量の低減が図られる」と言い、「八ッ場ダムの効果」の問題を「利根川上流ダム群の効果」の問題にすり替えています。

つまり、国土交通省は、栃木県が八ッ場ダムから治水上の利益を受けるとは言わずに、利根川上流ダム群により治水上の利益を受けると言っています。

栃木県が八ッ場ダムだけでは治水上の利益を受けないことを白状しているようなものです。

「八ッ場ダムを含め利根川上流ダム群の洪水調節によって利根川の洪水流量の低減が図られる」ことにより栃木県が「著しく利益を受ける」と主張するなら、栃木県が利根川上流ダム群のうち、八ッ場ダムについてのみ治水負担金の支払義務を負うことの説明がつきません。

しかも、単に「利益を受ける」と言っており、河川法第63条第1項が「著しく利益を受ける」ことを要件としていることを勝手に読み替えています。

以上に見たように、国土交通省の説明は、河川法の条文を無視しており、法律論としても成り立ちません。

●国はカスリーン台風を基準として想定氾濫区域を決めた

国土交通省は、松井県議への回答で「利根川の最大水位の標高地点」という表現でごまかしたようですが、裁判では「想定氾濫区域は計画高水位と沿川の地盤高をもとに作成しており」と回答しています。

計画高水位を基準として氾濫区域を定めたと言っています。

「計画高水位」とは、計画高水流量が河川改修後の河道断面(計画断面)を流下するときの水位です。

「計画高水流量」とは、基本高水流量から各種洪水調節施設での洪水調節量を差し引いた流量です。利根川では、八斗島地点で1万6500m3/秒とされています。

「基本高水流量」とは、計画の規模の降雨が発生した場合に、洪水防御の基準となる地点で発生する流量です。

利根川の治水計画規模は、約1/200確率の降雨にほぼ等しいとされるカスリーン台風時の降雨確率とされています。

つまり、国土交通省は、約1/200確率の降雨に匹敵する降雨を前提に八ッ場ダムによる栃木県の受益範囲を定めたと言っています。

●国は氾濫区域をシミュレーションしていない

国が「想定氾濫区域」という概念を持ち出すため、氾濫区域を想定した、つまり氾濫シミュレーションをしてあると誤解する人もいるかもしれませんが、氾濫シミュレーションはしていません。したがって、破堤地点を想定しているわけではありません。

利根川の堤防の各地点の計画高水位の標高を栃木県の方に水平に伸ばしていっただけです。

氾濫シミュレーションをしていないということは、現実性とかけ離れた氾濫区域を定めたということです。

現実性を無視して受益範囲を定めたのですから、当該地域が「著しく利益を受ける」はずがありません。

●「想定氾濫区域」という概念を用いたことが誤りである

国は2008年の調査嘱託回答で「想定氾濫区域」という概念を用いて八ッ場ダムの治水上の受益範囲を定めたと説明しています。

そして、「想定氾濫区域」とは、「河川のはん濫により浸水するおそれのある区域」であり、「浸水する可能性が潜在的にある区域」であると説明しています。

しかし、「想定氾濫区域」とは、河川法施行規則第1条の2第2号から借用した概念です。

そして、同条は、重要な水系を指定するための規定です。

重要な水系を指定するために、氾濫区域を想定することは当然だと思いますし、氾濫区域を潜在的な可能性のレベルの基準で判断しても問題ないと思います。

どんな基準であれ、全国の河川に全国一律の基準を適用すれば、どの水系がより重要かを相対的に判断できるからです。

しかし、受益者負担金を考える場合には、話は別です。

河川法における受益者負担に限らず、およそ受益者負担とは、「特定の公共事業に必要な経費にあてるため、その事業によって特別の利益を受ける者に経費の一部を負担させること。」(コトバンク「受益者負担」)です。

「通常の利益」ではなく、「特別の利益」を受ける者に事業費の一部を負担させることです。

したがって、受益者負担における受益とは、潜在的な可能性のレベルで想定される利益を意味しません。

ダムによる受益は、利益を受けていることが明白に分かるような場合でなければなりません。それが河川法第63条の趣旨です。したがって、その前提として想定される洪水被害の存在もまた明白でなければならないはずです。

受益者負担金の受益範囲を定める際に、重要な水系を指定するための概念を借りてきたことが誤りなのです。

●「想定氾濫区域図」が1種類しかなければダムの効果は判断できない

建設省が八ッ場ダムの治水に係る建設負担金の根拠とした「想定氾濫区域図」は、氾濫区域を定めた図にすぎません。(ちなみに、負担割合については、想定氾濫区域内の1978年7月当時の固定資産額を要素として決定されたそうです(2011年3月24日栃木3ダム訴訟宇都宮地裁判決p69)。)

八ッ場ダムによってその氾濫面積がどれくらい減るのかが分からなければ、ダムによって「著しく利益を受ける」のかを判断することはできません。

八ッ場ダムによって「著しく利益を受ける」のかを判断するためには、八ッ場ダムがない場合の想定氾濫区域図と八ッ場ダムがある場合の想定氾濫区域図の2種類の図面が必要なはずです。

松井県議が、「想定氾濫区域図」だけの話を国土交通省から聞いて納得してしまう理由が分かりません。

●国は想定氾濫区域内の被害が八ッ場ダムによってゼロになると考えているようだが、矛盾している

ダム建設費の負担割合に関する国土交通省の考え方は非常に分かりづらいものです。

ダムの建設費を出発点とするのではなく、「新規のダムを建設する代わりに、洪水を全て河道で流すことができるように堤防の築造や河床の掘削などの河道改修を行うと仮定した場合の建設費」(身替わり建設費)という概念を立てて、ダム建設費を河道改修の建設費に置き換えます。

そして、調査嘱託書(補充)回答(2008年6月24日)では、「河道改修によって洪水被害が回避される想定氾濫区域内の都県別の固定資産額の比率」と言っています。

ダム建設に代わって行う河道改修によって被害がゼロになると考えているように見えます。

これらのことから何が分かるかというと、国土交通省は、八ッ場ダムが完成すれば、想定氾濫区域内の洪水被害はすべて回避されると考えているということです。

そう考えると、想定氾濫区域図が1種類しかないことに合点がいきます。

しかし、ダムができても堤防決壊による水害が起きることは、鬼怒川の例を見ても明らかですし、後記のとおり、国はダムの費用対効果を計算する場合、ダムがあっても水害はゼロにならないという前提で計算しています。ダムは、水害をゼロにしません。

ダムは水害をゼロにしないのに、ダムの建設費を河道改修の整備費用に置き換えて、しかも、河道改修が完成すれば、水害がゼロになると国は考えていると思います。

国土交通省は、幾重にも現実離れした想定をして八ッ場ダム建設費の都県の負担割合を計算しています。

●八ッ場ダムによる被害軽減効果は1割にすぎない

八ッ場ダムが完成すれば、利根川流域の水害がすべてなくなると思っている人がいるかもしれませんが、そんなことにはなりません。

2016年11月22日に開催された関東地方整備局事業評価監視委員会の資料のp84に、治水の費用対効果を計算する際の、年平均被害軽減期待額を計算した表が掲載されています。

年平均被害軽減期待額が1475億円となっていることだけを見ても、現実の被害額を無視した机上の計算であることが分かります。

それはともかく、一部を抜粋すると次のとおりです。
(単位:百万円、%) 流量規模 八ッ場ダムがない場合 八ッ場ダムがある場合 被害軽減額 軽減率
1/5__880,465 __757,826__122,640__13.9
1/10__1,833,670 __1,711,877__121,794__6.6
1/30__4,845,113__3,980,650__864,463__17.8
1/50__12,156,915 __10,006,503__2,150,412__17.7
1/100__27,946,261 __20,889,111__7,057,150__25.3
1/200__47,798,154 __43,627,140 __4,171,014__8.7

八ッ場ダムがない場合、1/30の洪水でも約4.8兆円の被害が利根川本流の流域で発生するという計算をしていることからも、架空の計算であることが分かると思います。

それはともかく、1/200確率の洪水が発生した場合、八ッ場ダムなしでは約48兆円の被害が発生するが、八ッ場ダムがあれば約44兆円に減少するという計算になっています。つまり、1/200洪水の場合、八ッ場ダムの被害軽減率は8.7%であり、1割にも満たないのです。

1/100洪水の場合は、25%の被害軽減効果があるとされていますが、1/200確率に匹敵すると言われるカスリーン台風洪水のときにも、利根川の氾濫水が栃木県に到達していないのですから、そもそも1/100洪水が栃木県に来るはずがありません。

いずれにせよ、八ッ場ダムの被害軽減率は、どんなに都合良く計算しても、最大で25%です。

八ッ場ダムができれば、被害額がゼロになるわけではありません。

●足利市、佐野市、旧・藤岡町の住民にどんな啓発をするのか

松井県議は、「今回のまた変更に当たってですね、具体的なことが進んでいくに当たりまして、必要な啓発等につきましては、該当地域の皆様にも啓発をしていただきたい」と言います。

松井県議は、どんな「啓発」をしろと言っているのでしょうか。

「足利市、佐野市、旧・藤岡町の住民の皆様、栃木県は八ッ場ダムの建設負担金を12億円も支払っていますので、数千年に1回又は数万年に1回の確率で利根川左岸の堤防が決壊して氾濫して栃木県内に浸水被害が生じたとしても、被害額の約1割は軽減されますので、ご安心ください。」とでも広報すべきなのでしょうか。

私が足利市民だとしたら、12億円もの治水予算があるなら、渡良瀬川による水害の防止に使ってくれと言います。

●啓発とはホームページのことだった

松井県議は、「これまでもいくつかの議会の中で、この議案に関して触れられたときには、該当地域にも漏れなく啓発もしてきたということでご答弁もいただいております。」と発言しました。

私は先日、これまで栃木県が八ッ場ダムの栃木県への治水効果についてどのような啓発をしてきたのかが分かる資料を情報公開請求しましたが、砂防水資源課職員から、文書不存在につき非開示にしたいとの電話がありました。

そのような啓発は、ホームページでしているだけだとのことでした。

そのホームページとは、砂防水資源課が所管する「国のダム事業について」というページです。

次のように書かれています。

八ッ場ダム建設事業

八ッ場ダムは、国土交通省が吾妻川中流に建設を進めている多目的ダムです。利根川水系の上流ダム群と合わせて下流部の洪水被害を軽減するとともに、水資源の有効利用として首都圏の都市用水の開発及び流水の正常な機能の維持を目的としています。

栃木県においては、渡良瀬川右岸の足利市、佐野市、栃木市(旧藤岡町)の一部が利根川の氾濫区域に含まれており、治水上重要な施設となります。

利根川の洪水が実際に栃木県を襲う確率がどの程度なのかが示されていません。

利根川の洪水が栃木県を襲った際に栃木県にどの程度の被害が発生するのか、八ッ場ダムによってその被害がどの程度軽減されるのかも書かれていません。

また、八ッ場ダムの建設のために栃木県が12億円を負担することも書かれていません。

何よりも、足利市などの受益地域に向けた啓発ではありません。松井県議は、「(知事は)該当地域にも漏れなく啓発もしてきた」と言っています。該当地域だけに向けた啓発をしてこなかったとしたら、虚偽答弁にならないでしょうか。

「該当地域にも漏れなく啓発」がホームページへの掲載を意味するとは誰も思わないでしょう。

県民の払った税金を12億円も使うのなら、少なくとも「とちぎ県民だより」に載せるとか、足利市、佐野市及び栃木市に広報誌掲載を依頼するくらいのことはすべきでしょう。

●今の納税者は八ッ場ダムの恩恵を受けられない

これまで利根川の洪水が栃木県を襲ったことがないのですから、今後もそういう事態はほとんど起こらないと思います。

仮に起こるとしても、私の直感では数万年先だと思います。

そうだとすれば、今生きている世代は八ッ場ダムの恩恵を受けられません。

そもそも西暦3000〜3500年には(早ければ千年後ということ)、計算上は日本の人口はゼロになると国立社会保障・人口問題研究所の所長は言っています(2016年12月8日付け東洋経済オンライン「日本人は「人口急減の恐怖」を知らなすぎる」)。

受益者がいないということです。

また、そもそも八ッ場ダムの寿命が百年を超えるかも疑問です。

現在生きている世代がほぼ確実に恩恵を受けられないであろう治水対策に、そして耐用年数の期間内に栃木県への効用を発揮しないであろう治水対策に12億円をかけるという栃木県の治水政策に県民は納得するのでしょうか。

ちなみに、数万年に1度の大洪水が来年来るかもしれないじゃないか、という理屈を言う人がいるかもしれませんが、後記のとおり、そんな大洪水が来たときには、そもそも八ッ場ダムは機能しません。

●利根川の洪水が栃木県に及ぶ場合には八ッ場ダムは機能しない

上記のとおり、国土交通省が2005年に作成した利根川のハザードマップによれば、利根川における1/200確率降雨による洪水は、足利市と佐野市を襲いません。

1/200程度という計画規模を超える大洪水が発生すれば、足利市と佐野市が利根川の氾濫で浸水する可能性があるという理屈になります。

しかし、その時には、八ッ場ダムは洪水調節機能を発揮できません。

八ッ場ダムは、1/200程度の確率までの降雨による洪水を調節できるように設計されているのであり、いわゆる超過洪水が発生した場合には、ダム湖への流入量と放流量が等しくなってしまいます。

つまり、足利市と佐野市は、国土交通省の計算によれば、利根川の1/200までの規模の洪水では浸水しないし、1/200を超える洪水が起きた場合には浸水する可能性があるとしても、八ッ場ダムは洪水調節機能を果たせません。

いずれにせよ、足利市と佐野市が八ッ場ダムから治水上の利益を受けることはないということです。まして、「著しく利益を受ける」ことはあり得ません。

●河川整備基本方針にも違反している

利根川水系河川整備基本方針(基本高水等に関する資料)p9によれば、利根川本流の治水計画規模は1/200確率洪水流量と観測史上最大流量のいずれか大きい値とされ、カスリーン台風洪水の流量は、1/200確率洪水の流量に匹敵するとされています。

利根川で既往最大洪水のカスリーン台風洪水でも、利根川の洪水は栃木県に到達しませんでした。

また、利根川で1/200確率洪水が起きても、その氾濫水によって足利市と佐野市が浸水しないことは、2005年3月に国が作成したハザードマップで証明されました。

国が栃木県に対して八ッ場ダムの治水負担金を賦課するということは、1/200確率洪水に匹敵するとされる既往最大洪水をはるかに超える規模の洪水を想定していることになり、「著しく利益を受ける」(河川法第63条第1項)という要件を満たさないだけでなく、治水計画規模をカスリーン台風降雨の発生確率とするという、利根川水系河川整備基本方針で自ら決めたこととも矛盾します。

(文責:事務局)
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