宇都宮市の湯西川ダム参画は失敗だった〜だから言わないこっちゃない〜

2015年2月8日

●宇都宮市の湯西川ダム利水参画は失敗だ

宇都宮市が湯西川ダム(2012年完成)に利水参画していることについて住民訴訟が起きていたことについては、
「湯西川ダムは要らない」
「湯西川ダム訴訟で宇都宮市は科学的主張をあきらめた」
「湯西川ダム訴訟判決は不当」
などでお知らせしてきました。

宇都宮市が湯西川ダムに参画する理由は、宇都宮市の1日最大給水量が2019年度に226,000m3/日になると予測されるが、現有水源が202,000m3/日しかないので、湯西川ダムで開発される水量から取水量ベースで25,920m3/日(0.3m3/秒)、給水量ベースで24,000 m3/日を確保する(合計で226,000m3/日を確保する)というものです。

湯西川ダムのために宇都宮市が支払う負担額は、建設負担金だけでも約92億円(1840億円×5%)になります。

そのほか、水源地域対策特別措置法による負担金が約24.4億円(169億円×14.43%)になります。

また、財団法人利根川・荒川水源地域対策基金事業の負担金(事業費の15.2%)も支払うことになります。基金の負担金は、全体計画が未確定なので、宇都宮市の負担額も未確定です。

以上の根拠は、湯西川ダムの参画について宇都宮市の市長及び上下水道事業管理者を訴えた住民訴訟の被告準備書面(1)及び(2)です。

宇都宮市は、湯西川ダムのために、利息を除いても約120億円を支払うことになります。

宇都宮市の最新の水需要予測が2002年度になされたもので、予測値と実績値の乖離度が、住民訴訟が提起された2004年当時はさほど明確ではありませんでしたが、後記のとおり、今になってみると宇都宮市の水需要予測が誤りであったことは明白です。

宇都宮市は、「水需要は長期的にはゆるやかに増加するものと見込まれており、将来の水需要に対応するためには、新たな水源(湯西川ダム)の確保が必要である。」(住民訴訟の被告準備書面(4)p2)、「湯西川ダムの水利権については、適正な水需要予測を根拠に、将来にわたって必要な水量を確保するために必要不可欠であると判断し、そうした判断の上にたって取得した。」(同)と確信を持って主張してきましたが、そうした主張が誤りであったことがはっきりしました。

●宇都宮市の水需要予測は過大だった

宇都宮市は、1992年度、1998年度及び2002年度に水需要予測を行っていますが、下図のとおり、予測は、1日最大給水量についても1人1日最大給水量についても外れています(出典は、「宇都宮市水需要予測」(2002年度)、「宇都宮市統計書」及び「栃木の水道」(栃木県作成))。
宇都宮市1日最大給水量 宇都宮市1人1日最大給水量

1992年度及び1998年度に行った予測は、1日最大給水量が30万m3/日を超えるとするもので余りにも過大な予測でした。

2002年度に行った予測は、従来の予測を大幅に下方修正したので、一見まともそうに見えますが、1992年度をピークとした1日最大給水量の減少傾向を、強引に増加傾向に反転させるもので、不当な予測でした。実際、予測値は、実績値と年を経るごとにどんどん乖離してきています。

2002年度予測によると、2012年度の予測値は223,000m3/日ですが、実績値は180,499m3/日(「栃木の水道」(栃木県作成))にすぎず、予測値が約24%も過大だったことが明らかになっています。

宇都宮市の1日最大給水量のピークは1992年度の227,810m3/日であり、2012年度の実績値は180,499m3/日ですから、20年間で2割も減少しています。

2012年度の1日最大給水量は、1980年代に戻っているということです。

宇都宮市が2002年度に行った水需要予測では、2019年度の226,000m3/日がピークとなり、2019年度は最新の実績値のある2012年度から7年先のことですが、宇都宮市の1日最大給水量は減少傾向にありますし、宇都宮市が2014年7月に行った人口予測では、3年後の「2017年の 518,460 人をピークとして, 2020年まで徐々に人口が減少したのち,加速的に人口が減少し, 2030年には,504,665 人になるものと推計される。」(宇都宮市の将来推計人口(2014年7月推計)について)ので、1日最大給水量は226,000m3/日に達するどころか、減少傾向は今後も継続し、予測値と実績値の乖離はますます大きくなるものと予想されます。

節水型のトイレや洗濯機の普及も宇都宮市の水需要の減少に拍車をかけるでしょう。したがって、宇都宮市の1日最大給水量は、水道当局が意図的な操作をしない限り、当分の間は減少を続けるはずで、やがて180,000 m3/日を切り、これを超えることがない時代がしばらく続くと思われます。

いずれにせよ、宇都宮市の最新の水需要予測は、2019年度までは減少しないというもので、過大であり、誤りでした。

●水源構成の見直しは数字合わせ

上記のとおり、宇都宮市は2002年度に水需要予測を行い、1日最大給水量が2019年度に226,000m3/日になると見込みました。

ところが、当時の宇都宮市の水源計画は、下記のとおり、湯西川ダムを含めて310,000m3/日でした。

川治ダム(鬼怒川)   100,000m3/日
今市水源(大谷川)    14,000
県からの受水  28,000
宝井水源(旧・河内町・地下水)    41,000
白沢水源(旧・河内町・地下水)   77,000
湯西川ダム  50,000
合計     310,000

つまり、宇都宮市は、湯西川ダム分の50,000m3/日を除いても260,000m3/日を既に保有していたのです。

ということは、水需要が226,000m3/日で、湯西川ダムなしの供給量が260,000m3/日ということです。

これでは、湯西川ダムがなくても、供給量が需要量を34,000 m3/日も上回っており、湯西川ダムで水源を確保する必要がなくなります。

そこで、宇都宮市は、2003年度に下記のとおり水源構成の見直しを行いました。

川治ダム   100,000m3/日
今市水源    14,000
県からの受水  28,000
宝井水源      0
白沢水源   60,000
湯西川ダム  24,000
合計     226,000

見直しの内容は、湯西川ダムでの確保水量を50,000m3/日から24,000m3/日に約半減したものの、現有水源量も大幅に減らすことにしました。

即ち、湯西川ダムなしで260,000m3/日あった現有水源量が202,000m3/日に減りました。約22%の減少です。

宝井水源41,000 m3/日を丸々放棄し、白沢水源77,000 m3/日については17,000 m3/日縮小させて60,000 m3/日としたからです。

以上の根拠は、湯西川ダム住民訴訟の被告準備書面(2)です。

水需要が226,000m3/日なのに現有水源量が202,000m3/日しかない、したがって、湯西川ダムで24,000 m3/日(取水量ベースで25,920m3/日)の水源を確保する必要があるというストーリーが、ここにでき上がったわけです。

しかし、下記のとおり水源の見直しに合理的な理由はなく、水源構成の見直しは数字合わせすぎません。

●宇都宮市の水源は202,000m3/日でも足りる

宇都宮市が行った水源の見直しに合理的な理由がないという説明の前にもっと重要な話があります。

上記のように、宇都宮市の1日最大給水量は、現在(最新データのある2012年度)、約180,000 m3/日であり、今後も減少傾向は続くと見込まれますので、水源が202,000m3/日しかないとしても問題ない、つまり湯西川ダムで水源を確保する必要はないということです。

宇都宮市は、住民訴訟の中で、「水源余裕率とは「解説 水道事業ガイドライン」[社団法人日本水道協会(平成17年)](乙第8号証)において規格化された業務指標であって、1日最大配水量(給水量)に対して確保している水源水量にどの程度の余裕があるかを示すもの、端的に言えば渇水に対する安全度を示す指標である。さて、水源余裕率の算出式は、水源余裕率=[(確保している水源水量÷1日最大配水量)−1]×100で、数字が大きければ大きいほど水源に余裕があることを示す。」とした上で、湯西川ダムによる水源がない場合の宇都宮市の水源余裕率は、2005年度の数値(1日最大給水量197,218m3/日)を基にすると2.4%しかなく、「小さい値になっている」(2007年5月25日付け被告準備書面(7)p4)と主張しました。

そして、この水源余裕率2.4%という数字は、「水道事業ガイドラインに掲載されている他の自治体(例えば横浜市の場合38.3%)と比較しても小さい値となっている」と言います。

おそらくは、水源余裕率が2.4%では、水道事業者として、とてもやっていけないと言いたいのでしょう。

しかし、上記のとおり、2012年度の1日最大給水量は180,499m3/日であり、この値を基にすると、湯西川ダムがなくても、宇都宮市の水源余裕率は約12%となり、やっていけない数値ではありません。

●水源余裕率が何%なら十分なのか

宇都宮市は、訴訟の中で、水源余裕率が何%なら十分なのかについて述べていません。

上記被告準備書面(7)の主張は、2005年度の数値(1日最大給水量197,218m3/日)に対して水源水量が202,000m3/日では、水源余裕率が2.4%で小さすぎてダメだと言っているのですから、反面、現計画の水源水量226,000m3/日であれば十分であるという趣旨とも受け取れます。

そうだとすると、2005年度の1日最大給水量197,218m3/日で水源余裕率を計算すると、水源余裕率=[(226,000m3/日÷197,218m3/日)−1]×100=14.6となりますから、水源余裕率が14.6%なら十分であると言っていることになります。

上記のとおり、2012年度の1日最大給水量180,499m3/日を基に湯西川ダムがない場合の水源余裕率を計算すると約12%ですから、宇都宮市が十分と考えているであろう水源余裕率14.6%と大きく変わりません。宇都宮市の水源余裕率は、あと数年のうちに14.6%に達するはずです。

湯西川ダムによって水源を確保しないと十分な水源余裕率を確保できないという宇都宮市の主張は崩れています。

●「水源余裕率は0%でもやっていける」というのが宇都宮市の立場

上記と矛盾するようですが、宇都宮市は、水源余裕率は14.6%どころか、0%でもやっていけると考えているのだと思います。

なぜなら、宇都宮市の第6期水道拡張事業計画(2003年度変更)の計画1日最大給水量は226,000m3/日(被告準備書面(2)p5)であり、現計画の計画水源水量も同じく226,000m3/日(被告準備書面(2)p7)だからです。

計画1日最大給水量=計画水源水量なら、水源余裕率はゼロです。

宇都宮市は、計画1日最大給水量=計画水源水量としたのですから、水源余裕率をゼロにしたということです。水源余裕率は0%でもやっていけるという計画を策定したということです。

宇都宮市も横浜市のように38.3%の水源余裕率が必要だというのであれば、宇都宮市は、計画水源水量を312,558m3/日にしなければならなかったはずです。

水道事業にとって適正な水源余裕率は必要なはずですから、計画水源水量は計画1日最大給水量よりも大きくなければなりませんが、宇都宮市が計画1日最大給水量=計画水源水量としたということは、宇都宮市の計画1日最大給水量と計画水源水量のいずれか、又は双方がデタラメの数値だということを宇都宮市が自覚しているということではないでしょうか。

●宝井水源とは

以下、宝井水源の全量放棄について考えてみます。

まず、宝井水源とはどんな水源かについては、宇都宮市の水道事業懇話会資料に次のような解説があります。

宝井水源
この水系は、戦後の市勢の発展に対応するため、昭和30年4月から同42年3月にわたる第1・第2期拡張事業により開発したものです。

河内郡河内町宝井地内の地下水を集水埋管により取水し、約4km離れた山本浄水場まで導水し、山本浄水場で薬品注入、塩素消毒をした後、配水ポンプで1日41,000(m3)山本配水区に給水することができます。(( )は引用者)


●宝井水源を放棄した理由

宇都宮市は、2005年度の水源構成の見直しで宝井水源(地下水源)41,000m3/日を正式に放棄しました。実際には、2004年11月から取水を「休止」していました。

第6回宇都宮市水道事業懇話会 議事録(2004年1月29日)によると取水を休止した理由は、次のとおりです。

宝井水源の休止については,
1埼玉県越生町で発生した病原性原虫類による水質事故を機に,厚生労働省が,上流に畜産農家や下水道処理施設がある場合で大腸菌などの指標菌が出た場合には,取水を中止しなければならないという暫定指針を定めたことを踏まえ,将来の水質の安全性を考えたこと,
2各水源の浄水コストを試算したところ,宝井水源は新たな浄水設備の整備が必要になりコスト高となることから,休止して湯西川ダムから取水した方が安く済むこと,
3地下水能力調査の結果取水能力が低下していること,
4宝井水源は地下 3.5mという非常に浅い場所で穴開き管に集水する方法で取水しているため水源地周辺の環境変化の影響を受けやすいこと,
以上のことなどから,結論に至ったところである。

湯西川ダム住民訴訟被告準備書面(2)(2005年11月28日付け)には、次のように書かれています。

宝井水源については水源地周辺の環境の変化のため、水源の原水から塩素消毒のみでは除去できない耐塩素性病原生物(クリプトスポリジウム)の指標菌が検出されるなど、水質汚染のおそれが認められたため、水質事故の未然防止という観点から平成16年11月に休止した。

湯西川ダム住民訴訟被告準備書面(4)(2006年8月28日付け)には、次のように書かれています。

クリプトスポリジウム指標菌(大腸菌)は平成13年度に3回及び平成15年度に4回、平成16年度にも1回検出されている。言うまでもないことであるが指標菌検出後も安全性に配慮しながら宝井水源は使用されてきた。しかし、その後も指標菌が検出されたため、平成16年に休止した。

ところが、第1回宇都宮市上下水道事業懇話会(2008年8月28日)の議事録には、「クリプトスポリジウムの検出など水質の悪化が進行したため、宝井水源を休止しました。」と書かれています。

●被告準備書面(4)の記述も奇妙

上記のように、被告準備書面(4)には、次の記述がありますが、奇妙です。

クリプトスポリジウム指標菌(大腸菌)は平成13年度に3回及び平成15年度に4回、平成16年度にも1回検出されている。言うまでもないことであるが指標菌検出後も安全性に配慮しながら宝井水源は使用されてきた。しかし、その後も指標菌が検出されたため、平成16年に休止した。

間を省略すると、「平成16年度にも1回検出されている。(中略)その後も指標菌が検出されたため、平成16年に休止した。」となり、おかしさが鮮明になります。

要するに、2004年4月以降、2004年11月に休止する前に1回検出されていて、その後も休止する前に指標菌が検出されたのなら、結局、2004年度には、休止する前に2回以上検出されたことになります。

したがって、「平成16年度にも1回検出されている。」と言い切った後で「その後も指標菌が検出された」という話は、信用できません。

訳の分からない記述をしていること自体、指標菌が検出された事実の存在を疑わせるものです。

●宝井水源の放棄に正当な理由があったかは疑問

宝井水源の放棄に正当な理由があったかは疑問です。なぜなら、上記のとおり、宇都宮市による説明が時々によって食い違っているからです。放棄する理由などどうでもよかったことの証左ではないでしょうか。

訴訟では、宇都宮市は、「宝井水源からクリプトスポリジウムが検出された」という主張は全くしていないのに、1審係属中の2008年8月開催の第1回宇都宮市上下水道事業懇話会では宝井水源から「クリプトスポリジウムの検出」があったと説明しているのですから、いい加減なものです。

宇都宮市民には、市の上下水道局に問い合わせ、「クリプトスポリジウムの検出」があったのかなかったのかをはっきりさせることを望みます。

●クリプトスポリジウム対策は取水中止ではない

宇都宮市が宝井水源での取水を休止した上記1の理由を考えてみましょう。下に再掲します。

1埼玉県越生町で発生した病原性原虫類による水質事故を機に,厚生労働省が,上流に畜産農家や下水道処理施設がある場合で大腸菌などの指標菌が出た場合には,取水を中止しなければならないという暫定指針を定めたことを踏まえ,将来の水質の安全性を考えたこと,

「埼玉県越生町で発生した病原性原虫類」とは、クリプトスポリジウムを指すと思われます。

これに対する厚生労働省の暫定指針とは、「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」(1996年10月4日)だと思われます。

しかし、厚生労働省は、2007年3月30日付けで「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」(厚生労働省健康局水道課長通知)を出しました。「クリプトスポリジウム等」とは、「クリプトスポリジウム及びジアルジア」のことです。

この指針によると、宝井水源は、「地表水以外の水を水道の原水としており、当該原水から指標菌が検出されたことがある施設」に該当するため、レベル3に分類されます(通知p1)。

レベル3の水源については、次の対応措置を講じることとされています(通知p3)。

以下のいずれかの施設を整備すること。
(a) ろ過池等の出口の濁度を 0.1 度以下に維持することが可能なろ過設備(急速 ろ過、緩速ろ過、膜ろ過等)。
(b) クリプトスポリジウム等を不活化することができる紫外線処理設備。具体的 には以下の要件を満たすもの。

要するに、レベル3の水源については「ろ過池等の出口の濁度を 0.1 度以下に維持すること」又は「紫外線処理」でもよいと言っています。

紫外線照射量については、次のような記述があります。

低圧紫外線ランプから発せられる紫外線 10mJ/cm2(照射強度(mW/cm2)_照射時間(s)) を水に照射することにより、当該水中のクリプトスポリジウムを 99.9%不活化すること (3log 不活化)ができる。また、紫外線 5mJ/cm2 を水に照射することにより、当該水中のジアルジアを 99%不活化すること(2log 不活化)ができる。

クリプトスポリジウムの指標菌が検出された場合の対策は、取水の中止ではなくなったのです。つまり、宇都宮市は、2007年の時点では、紫外線処理により宝井水源を使い続けるという選択肢を持っていたことになります。

湯西川ダム住民訴訟の中で、宇都宮市長代理人も「(紫外線処理を)導入することが可能かどうかということについては特に争いはないと思う」(嶋津暉之氏への証人尋問調書p51)と述べています。

費用が高額ですが、膜ろ過処理によっても、クリプトスポリジウム及びジアルジアを除去できます。

したがって、宇都宮市は、2007年の時点では、「ろ過池等の出口の濁度を 0.1 度以下に維持すること」、「紫外線処理」又は膜ろ過処理によって、宝井水源を使い続けることが可能だったのです。湯西川ダム事業から撤退することも可能だったのであり、そのことを宇都宮市は認識していたのです。

●紫外線処理なら2億円

宝井水源を休止する理由のうち、「2各水源の浄水コストを試算したところ,宝井水源は新たな浄水設備の整備が必要になりコスト高となることから,休止して湯西川ダムから取水した方が安く済むこと」について考えてみましょう。

前掲の嶋津証人は、八戸水道企業団の蟹沢浄水場の紫外線処理設備(2004年4月設置)の工事費が、処理能力15,000m3/日で約7,300万円であったことから、宝井水源で18,000m3/日を処理するのであれば、1億円程度で足りると言います(嶋津証人調書の資料p17)。

そうだとすると、まるまる41,000m3/日を処理するとしても、2億円程度で足りることになります。

●膜ろ過処理でも39億円

宇都宮市は、2008年以前に膜ろ過処理についての費用を試算しています。

宇都宮市の試算によれば、処理能力18,000m3/日の場合、膜ろ過処理設備の工事費用は約17億円であるとされます(嶋津証人調書の資料p17)。

ところが、膜ろ過処理設備を持つ東京都羽村市の浄水場(2004年2月設置)は、処理能力30,000m3/日で17.8億円だと嶋津氏は言います(嶋津証人調書の資料p17)。

処理能力と工事費が正比例するものではないとしても、宇都宮市の試算は羽村市の実績よりも2割は高いと嶋津氏は言います。

膜ろ過処理施設の維持管理費用についても、宇都宮市は過大に試算しています。

羽村市では、処理能力30,000m3/日の施設を5人の職員で運用しているのに、宇都宮市は、処理能力18,000m3/日の施設を10人で運用するという条件で計算をしています。

それはともかく、宇都宮市の試算によっても、宝井水源の41,000m3/日を膜ろ過処理する場合、比例計算をすれば39億円ですむことになります。

●「宝井水源を休止して湯西川ダムから取水した方が安く済む」のか

以上のとおり、宝井水源の41,000m3/日を、紫外線処理する場合は2億円、膜ろ過処理する場合は39億円となります。

他方、湯西川ダムで24,000m3/日の水源を確保する場合には、上記のように120億円を負担する必要があります。

どうして「(宝井水源を)休止して湯西川ダムから取水した方が安く済む」と言えるのか理解に苦しみます。

嶋津証人によれば、宇都宮市は、各水源の浄水コストを試算する条件として、湯西川ダムを水源とする場合には100%の稼働率を設定し、宝井水源には37%の稼働率を設定するという細工を施して、宝井水源の浄水コストを引き上げたようです(嶋津証人調書p18〜19)。

宇都宮市は、2004年に「2各水源の浄水コストを試算したところ,宝井水源は新たな浄水設備の整備が必要になりコスト高となることから,休止して湯西川ダムから取水した方が安く済むこと」と説明しました。

そこでの浄水コストは、宝井水源の場合、膜ろ過処理だけで試算しています(嶋津証人調書p19)。

宇都宮市が2005年の水源構成の見直しにおいて宝井水源の浄水コストを膜ろ過処理だけで試算したことは非難できないとしても、2007年3月に厚生労働省が「レベル3の水源については紫外線処理でよい」という通知を出した後では、同市は、即刻再度の見直しを行い、紫外線処理での試算を行うべきであったと思います。

宝井水源について紫外線処理で浄水コストを試算すれば、低い稼働率を設定されたとしても、湯西川ダムで確保した場合の浄水コストよりも安いことは明らかです。

後記のように、宝井水源の取水量が18,000m3/日程度に減少しているとしても、宇都宮市による水源構成の見直し後の現有水源量202,000m3/日に18,000m3/日を加えれば、現有水源量は220,000m3/日となり、180,000m3/日程度の1日最大給水量であれば、20%を超える水源余裕率となるので、宇都宮市上水道は十分やっていけるはずです。

●地下水源が過小評価されている

宇都宮市は、2001年度から「地下水位観測調査や地下水源能力調査を実施した」結果、宝井水源と白沢水源の取水能力を下方修正しました(上記被告準備書面(4)p8)。

宝井水源はクリプトスポリジウムの指標菌となる大腸菌の検出を理由に2004年11月に休止されましたが、その前に、年間を通じて安定的に供給できる水量が18,000m3/日とされました。

同様の理由で、白沢水源も77,000m3/日であった取水能力が60,000m3/日と評価されました。

●宇都宮市が取水能力を過小評価する理由

上記被告準備書面(4)p7〜8によれば、宇都宮市が宝井水源と白沢水源の取水能力を切り下げた理由は、次のとおりです。

ところで、平成12年2月、国(厚生省)は水道施設の施設基準を明確に規定するための「水道施設の技術的基準を定める省令」を制定した。そして、同省令第2条の3項5号において「地下水の取水施設にあっては、1日最大取水量を常時取り入れるのに必要な能力を有すること。」と規定されるに至った。

こうした事情にもとづき、宇都宮市は、白沢・宝井水源について平成13年度から順次地下水観測調査や地下水源能力調査を実施し、地下水源の適正な能力を評価した。なお、常時取水可能な取水量は一般的に冬季の取水能力とされている。


●「需要量は夏期で評価し、供給量は冬期で評価する」のは不合理

地下水の取水能力に関する宇都宮市の上記の考え方は、要するに冬期の取水能力で評価するということです。

他方、一般に水道事業計画における「計画給水量」とは、1日最大給水量とされており(「水道施設設計指針2000」p25)、宇都宮市の1日最大給水量は夏期に記録されるのが実績です。例えば、2012年度の1日最大給水量は、2012年8月29日に発生しています。

1日最大給水量が夏期に発生するなら、地下水の取水能力も夏期における取水能力で評価すべきであって、冬期の取水能力で評価するのは不合理です。

宇都宮市の「第6期水道拡張事業変更計画報告書」によれば、白沢水源と宝井水源の夏期の取水能力は、それぞれ100,000m3/日、47,000m3/日であるといいます(湯西川ダム住民訴訟原告準備書面5(2006年5月11日付け)p22)。

それにもかかわらず、白沢水源の取水能力を冬期の取水能力である60,000m3/日と評価し、宝井水源のそれを18,000m3/日と評価することは、余りにも不合理です。わざわざ高額な設備投資を要する事態を招く計算をしており、民間企業ではあり得ない評価方法です。

「需要量は夏期で評価するが、供給量は冬期で評価する」という宇都宮市の計画は、余りにも不合理であり、違法です。

宇都宮市の地下水源量の評価方法は、「地方公営企業は、常に企業の経済性を発揮する(中略)ように運営されなければならない。」(地方公営企業法3条)とする規定に違反し、違法であると考えます。

●省令は冬期の取水能力で評価すべきであると言っていない

宇都宮市は、厚生労働省の省令を根拠に地下水の取水能力は冬期における能力で評価するのが正しいと言っているわけですが、省令の趣旨を嶋津証人が厚生労働省に問い合わせたところ、冬期の取水能力で評価するか、夏期の取水能力で評価するかは、自治体の判断によるとのことです(嶋津証人調書p24、p49)。

宇都宮市は、厚生労働省に問い合わせることもなく、「水道施設の技術的基準を定める省令」を勝手に曲解して、水道計画を立てたということです。

宝井水源を放棄した理由のうち「3地下水能力調査の結果取水能力が低下していること」とは、取水能力を夏期ではなく冬期に評価しただけのようです。

●水質を守る努力をするのが筋だ

宇都宮市が宝井水源を休止した理由のうち、「4宝井水源は地下 3.5mという非常に浅い場所で穴開き管に集水する方法で取水しているため水源地周辺の環境変化の影響を受けやすいこと」というのもおかしな話です。

要するに、水源が汚染されるかもしれないから最初からあきらめるということです。

地下水汚染を防止するための法律には様々なものがあり、「水質汚濁防止法」、「土壌汚染対策法」、「大気汚染防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」等の法律を適切に運用することで地下水汚染の発生を未然に防止することが相当程度まで可能であると考えられます。

1994年には、水道原水水質保全事業の実施の促進に関する法律が施行されており、下記のような水道原水の水質の保全に資する事業を実施することにより水道原水の水質を保全することもできるはずです。

(1)下水道の整備
(2)し尿処理施設(し尿及び雑排水を管渠によって収集するものに限る。)
(3)し尿及び雑排水を集合して処理する合併処理浄化槽の整備
(4)し尿及び雑排水を各戸毎に処理する合併処理浄化槽の整備
(5)家畜のふん尿を堆肥とするための施設等の整備
(6)水道の用に供する土地に隣接する土地の取得
(7)河川のしゅんせつ、導水その他の水道原水の水質の保全に資する事業
(8)その他政令で定める事業

「地下 3.5mという非常に浅い場所」での地下水が「水源地周辺の環境変化の影響を受けやすい」と言うのであれば、表流水はもっと「水源地周辺の環境変化の影響を受けやすい」はずです。

「水源地周辺の環境変化の影響を受けやすい」のはむしろ表流水であるにもかかわらず、表流水を放棄せず、地下水は汚染のおそれがあるという理由で簡単に放棄するのは、ご都合主義というものです。

「水源地周辺の環境変化の影響を受けやすい」は、宝井水源からの取水を休止する理由として破たんしています。

●長期的視点を欠くのは宇都宮市だ

住民訴訟において、原告らは、「宇都宮市の水需要予測は過大である」と主張しました。

これに対して宇都宮市上下水道事業管理者は、被告準備書面(4)p13において次のように反論しました。

原告の姿勢は専ら短期的な水需要予測と実績値の差のみにこだわるというもの、また一人当たり一日最大給水量や一日最大給水量が低下しているということを根拠とするのみで、他方で平成16、17年度の平均給水量は平成15年度に比べて増加しているという事実を無視している。

要するに、短期的な乖離だけを取り上げ水需要の予測を云々することは、長期的視点に立つという原則を無視するもので不適切と言うべきである。226,000立方メートル/日は宇都宮市にとって必要な水量である。

これまで考察してきたように、宇都宮市上水道の1日最大給水量が226,000m3/日に達することは、今後しばらくはあり得ないと見るのが普通の見方です。

宇都宮市上下水道事業管理者は、2004年度と2005年度の1日平均給水量が2003年度より増加していることが重要だと言いたいらしいですが、宇都宮市の1日最大給水量及び1日平均給水量の推移は、下図のとおりです。 宇都宮市最大平均給水量

2004年度と2005年度の1日平均給水量は、1996年度の187,631m3/日よりも小さく、2012年度の165,249m3/日よりも大きい。つまり、長期的に見れば宇都宮市の1日平均給水量も減少傾向にあることは明らかです。

「長期的視点に立つという原則を無視するもので不適切と言うべき」なのは、原告側の水需要予測ではなく、宇都宮市の水需要予測の方であることも明らかです。

●地下水源を放棄しなければ放射能汚染による苦労は軽減されたはずだ

「栃木県南地域における水道水源確保に関する検討報告書」(2013年3月、栃木県)には、次のように書かれています。

平成 23 年 3 月の東日本大震災による福島第一原発事故に伴い、3 月 25 日に放 射性ヨウ素が基準値(当時基準 100 ベクレル)を超えたことで宇都宮市(108 べクレル)と野木町(142 ベクレル)で乳児の摂取制限が行われ、ペットボトルが配布されたが、両市町 ともに、15 時間程度で摂取制限が解除となっている。

栃木県では、表流水への依存度が高い宇都宮市と野木町だけが水道水の放射能汚染で摂取制限が行われたのです。

栃木県は、「15 時間程度で摂取制限が解除」されたことで、表流水が放射能汚染されても問題が小さいと言いたいのでしょうが、当時、食品中の放射性物質に関する暫定規制値で決めた飲料水の基準は極めて緩く、問題が小さいとは言えません。

阿修羅の記事(元ネタは、みんな楽しくHappyがいい♪というサイトの<でました!>日本全国都道府県水道水蛇口セシウムランキング(2014年7月〜9月)。その元ネタは、原子力規制委員会の発表した環境放射能水準調査結果(上水(蛇口))によると、2014年7月から9月期の蛇口水全国セシウムランキング1位は栃木県(宇都宮市)です。

宇都宮市上水道に含まれるセシウム(134と137の合計)の濃度は0.00580 Bq/kgと小さいのですが、全国ランキングでは1位ということです。これまで、栃木県宇都宮市水道は、茨城県ひたちなか市水道と首位を争っています。

濃度は低いと言いながら、宇都宮市の水道のセシウムの濃度は、福島市の水道のそれよりも高いと聞いたら、宇都宮市の水道水を使って乳児に飲ませるミルクを作る気になれない親も相当数いるのではないでしょうか。

「朝顔と露」というブログの「水道水と浄水場発生土の放射性セシウム濃度」というページによると、「(2012年においては)比較的汚染度の高い栃木県山間部を水源とする宇都宮市松田新田浄水場では、当初10,000Bq/kgを超える高い値を示し、急速に減少したものの、11〜12月に掛けて上昇し始め、年明けから550Bq/kgと一旦大幅下落し、その後再び上昇して、現在は、1,000Bq/kg程度に落ち着いてしまっている。」という状況でした。

「宇都宮市の今市浄水場では2013年1月25日に採取した浄水発生土(取水した原水から水道水をつくる過程で取り除かれた河川中の濁り(土砂)や浄水処理に用いられた薬品類などの沈でん物を集めて脱水処理したもの)から1,241Bq/kgもの放射性セシウム(134+137)が検出されています。」(過去記事「今泉判決は崩れた(その2)〜地下水位低下も地下水汚染も水源転換の理由にならない〜」参照)。

2014年10月14日現在でも、今市浄水場の浄水発生土から429Bq/kgのセシウムが検出されています(宇都宮市のホームページの浄水発生土及び下水汚泥等の放射性物質の測定結果)。

宇都宮市は、放射物質を含んだ浄水発生土の処分方法に苦慮しているはずです。

宇都宮市が2005年度に宝井水源を放棄しなければ、宇都宮市民の健康が放射能汚染で脅かされる危険性は軽減されたはずだと思います。

上記過去記事から再掲しますが、「(栃木)県生活衛生課の担当者は、2008年度の県内の取水量2億6762万トンのうち、1億5536万トンが地下水だったことを挙げ、「栃木(県)は鬼怒川、那珂川、渡良瀬川から取水しているが、水源は大半が地下水なので安全性は高い」と話している。」(2011年3月25日付け朝)のです。

即ち、栃木県の職員が栃木県内の水道の取水量のうち58%が地下水だから、放射能汚染の心配はそれほどしなくてよいと言っています。

裏を返せば、水源が地下水でない場合は、放射能汚染の心配をする必要があるということです。

以上のことからも、宇都宮市水道が地下水依存度を低下させたことは失政だと思います。

●だれも責任をとらないのか

宇都宮市民は、2004年9月に湯西川ダム事業への参画に係る住民監査請求を行いました。

監査委員は、この請求を棄却しました。

しかし、これまで書いてきたとおり、宇都宮市の水需要が伸びる見込みはなく、宇都宮市が湯西川ダム事業に利水参画する必要はなかったのですから、監査委員の判断は誤りです。

宇都宮市議会は、2009年12月22日に内閣総理大臣、国土交通大臣及び衆・参両院議長あてに地方自治法第99条の規定に基づき「湯西川ダム建設事業の推進を求める意見書」を提出しました。日本共産党の市議は、一貫して湯西川ダム事業への参画に反対していましたが、多勢に無勢でした。

そこには、「湯西川ダムは,本市を含む鬼怒川や利根川下流域の関係自治体にとって洪水調節,流水の正常な機能の維持及び水道用水等の供給といった治水,利水の両面において必要不可欠な施設である。」と書かれています。

しかし、宇都宮市民による湯西川ダム住民訴訟は、2004年11月に提起されており、議会が意見書を提出した2009年12月までには、少なくとも宇都宮市の上水道にとって湯西川ダムが必要でないことは、訴訟で十分に証明されていました。

当該訴訟に係る準備書面等は、八ツ場ダム訴訟というサイトに掲載されていたのですから、議員はどちらの言い分が正しいかを知り得たはずです。

訴訟の経緯は知らないとしても、宇都宮市の議員には湯西川ダムの必要性について正しい判断ができなければ、議員としての存在意義がありません。

これまで書いてきたとおり、結果論から言っても、宇都宮市議会が宇都宮市の上水道にとって湯西川ダムが必要であると判断したことは誤りでした。

今となっては、住民の監査請求を棄却した監査委員の名前も議会としての意見書に賛成した議員の名前も、情報公開請求でもしない限り、容易には調べられません。結果的に監査委員と議員が公金の無駄遣いと環境破壊を助長しているのですが、誰も責任を取らないのでしょうか。

宇都宮市の水需要は増える、だから湯西川ダム事業への参画が必要だと主張してきた佐藤栄一市長も住民訴訟には勝ったので法的責任は問われないことになりますが、宇都宮市民に適法に損害を与えたことについて、政治家として道義的責任を感じることもなく、謝罪の言葉もないのでしょうか。

宇都宮市として、政策を事後評価をすることもないのでしょうか。

ちなみに、2011年の核発電所事故で琵琶湖の1.2倍あるいは1.5倍の面積が人の住めない地域になってしまったのですが、今のところ刑事告発も受理されず、だれも責任をとらないのですから、日本の政治はいい加減なものです。

●だから言わないこっちゃない

宇都宮市は、水需要が226,000m3/日(2019年度)にまで増えるという予測の下に湯西川ダムによる水利権を取得しました。

しかし、2012年度の1日最大給水量は約18万m3/日であり、今後も減少傾向は続くと見込まれますから、226,000m3/日に達する見込みはありませんので、宇都宮市による上記予測は、完全に外れています。

水源には余裕が必要ですが、現有水源を適正に評価すれば、十分な余裕があります。前掲の嶋津氏は、住民訴訟における証言の中で現有水源は24万m3/日はあると主張します。

2005年度の見直し前には湯西川ダム分を除いて260,000m3/日もあった水源量を、見直した結果202,000m3/日へと22%も減らしたのは、費用対効果を無視して地下水源を放棄したことが要因であり、作為的なものと見るほかありません。

住民訴訟を提起した市民としては、だから言わないこっちゃない、という心境のはずです。

5年後あるいは10年後の水需要が減るのか増えるのかも分からない人たちが権力をにぎってダム事業への参画を決めてしまい、議会も監査委員も労働組合も裁判所もチェック機能を果たさないという状況を変えられる時代はいつ来るのでしょうか。

●「2/20渇水に備える」という反論も成り立たない

宇都宮市は、計画1日最大給水量を226,000m3/日とし、計画水源量も226,000m3/日としているので、余裕は不要という考え方ですが、「宇都宮市は過剰に水源を抱えており、湯西川ダムへの参画は失政だった」と批判された場合、苦し紛れに「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」(2008年7月閣議決定)による水不足の年における開発水量の低減率(78.6%)という理論を持ち出すことが想定されます。つまり、「宇都宮市は、湯西川ダムに水源を求めないと、想定される渇水時に対応できない」という理論です。

この理論は、利根川水系及び荒川水系では、「水不足の年」においては、計画した開発水量の78.6%しか取水できなくなるというもので、栃木県が思川開発事業に参画する場合の必要水量の根拠として使っています。

この理論の起源は、2010年から 2015年を概ねの目標年度とした「新しい全国総合水資源計画(ウォータープラン21)」にあります。上記の「水不足の年」とは、「近年の少雨化傾向を示している1976年から1995年の20年間で2番目の少雨の年」と定義されています。

「水不足の年」への対応という考え方や水系ごとに算定される、この低減率の算定方法には疑問があるのですが、その説明は、梶原健嗣著「戦後河川行政とダム開発ーー利根川水系における治水・利水の構造転換ーー」のp94以下やp141以下に譲り、ここでは触れないことにします。

2/20渇水時の上記低減率が正しいとしても、湯西川ダムに参画しない場合の宇都宮市の水源開発に依存する水源量は、下記のとおり、128,000m3/日ですから、2/20渇水時の水源開発に依存する水源量は、128,000m3/日×78.6%=100,608 m3/日となります。

これに今市水源14,000m3/日と白沢水源60,000m3/日、更に宇都宮市が湯西川ダムに参画する代わりに放棄した宝井水源41,000 m3/日を加えると、湯西川ダムに参画せずに宝井水源を使い続ける場合の水源量は215,608m3/日となります。仮に宝井水源の取水能力が、宇都宮市が主張するように18,000 m3/日に低下しているとしても、水源量は192,608 m3/日になります。

川治ダム    100,000m3/日
県からの受水  28,000
合計      128,000

つまり、宇都宮市は、2/20渇水時でも192,608 m3/日を取水できる計算になります。宇都宮市の2012年度の1日最大給水量は180,499m3/日で、減少傾向にありますから、2/20渇水時にも1万m3/日の余裕があることになります。

ましてや、開発水量に関する上記低減率78.6%の算定方法には科学性がないので、実際にはもっと大きな余裕があることになります。

したがって、「宇都宮市は、2/20渇水時に備えて226,000m3/日の水源を確保する必要があったのだ」という反論は成り立ちません。

(文責:事務局)
文中意見にわたる部分は、著者の個人的な意見であり、当協議会の意見ではありません。
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