南摩ダムの必要性をだれが再検証するのか

2009-08-26

●衆議院選挙アンケート結果を下野新聞が報道

船田元衆議院議員が「南摩ダムは中止すべき」との回答で紹介しましたが、2009-08-25下野も「船田氏「思川開発は中止」の見出しで、「ムダなダムをストップさせる栃木の会」が実施した衆議院議員選挙立候補者へのアンケートの結果を報じました。

回答のあった本県の衆議院議員選挙立候補者8人のうち6人は、南摩ダムを「中止するべきだ」と回答しています。

船田氏は、南摩ダムを中止すべきだと考えていたのなら、与党の中枢にいたのですから、税金の無駄遣いを阻止し、環境を保全するために、中止に向けた努力をしてもよかったと思います。今ごろになって口先だけで反対だと言われてもねえ。対立候補にそれだけ追い上げられているということなのでしょうか。

西川公也氏は、回答しませんでした。西川氏の考え方は、南摩ダムの本質 に書いたとおりです。西川氏は、「私は賛否について意見を言わない。」というのが方針のようです。しかし、その理由が「(1998-11-27当時)まだ反対者がいるから」というのですから、賛成と言っているのと同義です。

●知事の発言は矛盾していないか

8月25日下野で上記アンケートの結果が報道されたのですから、当日開かれた栃木県知事の定例記者会見で、船田氏を含む6人の衆議院選挙立候補者が南摩ダムを中止すべきと言っていることについて、どう思うのかという質問が出るのは当然だと思います。

福田富一栃木県知事は、「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」、「八ツ場ダムも南摩ダムも水需要を再度確認した上で(ダムの必要性について)国民に対して説明責任を果たすべきだ」(2009-08-26下野)と語ったようです。

その一方で、福田知事は、「必要な水量を確保するのは行政の責務」、「八ツ場ダムが中止になるなら、南摩ダムの必要性はより高まる」とも述べたようです。

記事を読む限り矛盾していると思います。

「八ツ場ダムが中止になるなら、南摩ダムの必要性はより高まる」という発言は、下流県に新規水需要があることを前提とした発言です。

下流県に新規のダムを必要とするほどの水需要があることが分かっているなら、確認や検証をする必要性はないはずです。

再検証が必要だと言うなら「八ツ場ダムが中止になるなら、南摩ダムの必要性はより高まる」などと言うべきではありません。再検証の結果、逆に、「八ツ場ダムが中止になるなら、南摩ダムだって中止すべきだ」ということになり得るからです。

実際、私たちが調べた結果は、埼玉県で日量50万トン、東京都では日量190万トンもの余剰水源があり、下流県は水余りなのですから、「八ツ場ダムが中止になるなら、南摩ダムだって中止すべきだ」というのが正解です。

●福田知事は下流県の水余りを認識していないのか

福田富一栃木県知事の言い訳は正しいかで紹介したように、福田知事は、2008-08-23に那珂川町で開催された「とちぎ元気フォーラム」で、国土交通省が進める霞ヶ浦導水事業について「首都圏の下流県が事業の水を必要としている。」、「 この事業で下流都県が水を必要としているのに、水源県だからといって反対の立場を貫けるかは悩ましい問題だ。」(2009-10-09下野)と言っています。

福田知事は、現在、下流県の水需要を再検証すべきだと言っているのですから、1年前にも下流県の水需要を把握していなかったはずです。下流県の水需要を把握していないのに、なぜ「下流都県が水を必要としている」などと言えるのでしょうか。

下流県の水需要を把握していないにもかかわらず、「下流都県が水を必要としている」と言うのが、福田知事の一貫した態度なのかもしれません。

福田富一栃木県知事の言い訳は正しいかの表に書いたように、下流都県は水余りの状態です。栃木県知事がこんな明白な事実を認識していないということが問題だと思います。

福田知事は、事実を踏まえて発言すべきであることをここでも指摘しておきたいと思います。

●2040年の水需要は4分の3から半分に減る

「南摩ダムの水は使わない」 の「水需要は減る」の項目でも書いたように、「野村総合研究所の報告書によると、2040年の日本の水道使用量は現在の4分の3から半分に減る見通し」(2008-02-16読売)なのです。

これからダムを建設して水源開発する必要性なんてあるわけないのです。

福田知事は、こんなことも知らないでしょうね。知っていたら、「下流都県が水を必要としている」と言うはずないと思います。

●検証はだれがやるのか

記者会見での知事の発言は、矛盾をはらんでいるだけでなく、三つの点でピントが外れていると思います。

記者会見での「下流県の水需要を確認した上で、もう一度推進か中止かを含めて検証するべきだ」、「八ツ場ダムも南摩ダムも水需要を再度確認した上で(ダムの必要性について)国民に対して説明責任を果たすべきだ」という知事の発言では、残念ながら、すべて主語が省略されていますが、検証や確認や説明を、おそらくは「国がやるべきだ」というのが福田知事の意見でしょう。

栃木県が検証すべきだという見解ならば、とっくに検証に着手していなければなりませんが、未だにやっていないのですから、国がやるのを待つというのが福田知事の姿勢です。

霞ヶ浦導水事業について福田知事は、「さまざまな懸念が指摘されており、国がまず、その懸念について判断し解決していくかを見届けることを優先していくべきだ。その上で県としての考え方をまとめないといけない。」(2009-10-09下野)と言っていたのですから、自分で調べる気はないと見るべきです。

私は過去記事鹿沼市長からの回答 の質問19のコメントで次のように書きました。

大谷川から取水されることに危機感を持った旧今市市では、思川開発事業の必要性を検証しました。その結果が「思川開発事業大谷川取水に対する調査報告書」(2000年3月)にまとめられています。そこは福田昭夫市長(当時)の偉いところです。

県民を守る気持ちが本当にあるなら、ムダな支出を本当になくす気があるなら、国の事業であっても県が自ら調査すべきです。

八ツ場ダムや湯西川ダムや南摩ダムが国の事業であっても、栃木県が公金を支出しているのですから、栃木県が自ら水需要を検証し、説明責任を果たすべきです。

●検証をいつやるのか

検証をだれがやるのか、という問題と絡んできますが、いつやるのかについても知事の発言はズレています。

水需要の再検証を国がやるのを待っていたら、事業が完成してしまうじゃないですか。国(役人と政治家)は無駄金を使いたいのですから、いつまで待っても水需要の検証をまともにやるはずがありません。

2007年12月21日に国は思川開発事業に関して事業再評価委員会(第3回)を開催しましたが、1972年から2001年の30年間に13回の渇水が起きているからダムが必要だというような大雑把な理由が掲げられているだけで、個別の自治体がどれだけの水源を確保しているかといった具体的な検証はなされずに「事業継続」が決定されています。

私たちは、栃木県に対して2004年から八ツ場ダム、湯西川ダム、南摩ダムの三つのダムに係る公金支出について訴訟を起こしています。福田知事は、それでも水需要の検証をしようとしなかったのに、今になって水需要を確認すべきだとは、どういうことでしょうか。下流県の水需要は検証する必要性があっても、栃木県内の水需要は検証の必要性がないということでしょうか。

●検証の対象は下流県だけか

訴訟ではもちろん栃木県内の水需要が争点になっていますが、思川開発事業に対する栃木県の参画水量は、2001年当時は1.04m3/秒だったのが、2009年3月には0.822m3/秒へと2割も減っています。

栃木県内の水需要だってフラフラ揺れ動いていて、いい加減なものです。

栃木県は、県内の水需要のために公金を支出するのですから、県内の水需要を再検証すべきなのに、訴訟を起こされても再検証しない福田知事の姿勢は矛盾していると思います。

(文責:事務局)
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