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鹿沼市は、1996年3月に2010年を目標年次として鹿沼市水道事業第5次拡張計画を作成しました。その骨子は次のとおりです。
水源の種別 | 取水可能量(m3/日) |
---|---|
既認可取水井 | 38,100 |
新規地下水源 | 11,100 |
ダム表流水 | 16,200 |
計(A) | 65,400 |
計画取水量(B) | 51,580 |
差(A)-(B) | 13,820 |
計画どおり水源を確保すると、その合計は65,400m3/日にもなってしまいます。1人1日平均給水量を400リットルと仮定すると163,500人分の量です。これではさすがに多すぎますので、約15,000m3/日減らし、1日給水量を50,500m3に抑えたものと思われます。(それでも400リットルで割ると126,250人分ですから、多すぎますが。)
鹿沼市は、計画給水量を減らすためにどうしたかというと、既存の井戸からの取水量を減らしていくことにしました。どのように減らしていくかという計画が「水源別取水計画表」(「鹿沼市水道事業変更認可申請書(第5次拡張)」(以下「変更認可申請書」という。)p20)に書かれています。 最大給水量ベースで実績とともにグラフ(PDFファイル)に描いてみます。
鹿沼市は、「(1994年度の最大取水量実績は41,517m3/日もあり)既認可取水井の最大取水計画38,466m3/日(平成9年度)の取水は確実である。」(「変更認可申請書」p22)としていたのに、2010年には既認可取水井からは23,200m3/日しか取水しない計画なのです。このことは、「思川開発事業を考える流域の会」のサイトの「鹿沼市の水需要(59414トン)の内訳」の図でも既に指摘されています。
つまり、第5次拡張計画は、既存の地下水源を約14,000m3/日も放棄する計画なのです。
鹿沼市は、なぜ既存の地下水源を約14,000m3/日も放棄しなければならないのでしょうか。答は「変更認可申請書」のp22に書かれています。
「目標年度(2010年度)に於ける取水計画は、過去の取水実績から鹿沼市の地下水の特性として冬期(1月〜3月)に自然水位が低下することから、この期間の適正取水量を長期的な取水量として計画するものとする。」
つまり、冬期に照準を合わせて取水計画を立てるというのです。どうやって計画を立てたかというと、1995年の1月から3月までの「期間中の最大取水実績の内、下限値をもって限界取水量とし、この値の70%を適正取水量とすることとする」(「変更認可申請書」p22)というのです。「変更認可申請書」p23の「表3-4 浄水場別冬期取水実績及び適正取水量計算表」から抜粋します。
項目 | 第1浄水場 | 第2浄水場 | 第3浄水場 | 第4浄水場 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
限界取水量 | 5,759 | 4,587 | 7,305 | 6,055 | A(冬期下限値) |
適正取水量 | 4,000 | 3,200 | 5,100 | 4,200 | =Ax70% |
第1浄水場から第4浄水場までの適正取水量の合計が16,500m3/日で、当時実績値のなかった第5浄水場の適正取水量を既認可計画値である6,700m3/日として合計すると23,200m3/日となるという計算です。
●鹿沼市は取水能力を過小評価するトリックを使ったしかし、水源井では、夏期にはかなり大量に取水しても、周囲から地下水が補給されますから、問題はないはずです。
そして、国土交通省発行の2001年版「日本の水資源」p64には、 「上水道事業の月別一日平均給水量を見ると、気温の高い夏期に増加し、気温の低い冬期に減少する傾向となり」と書かれています。全国どこでも、いつの時代でも、冬期には水需要がないものです。
鹿沼市上水道においても、1日最大給水量を記録する季節は夏ですから、冬期に最大給水量に備える必要はありません。また、なぜ、各浄水場の冬期下限値の「70%」が適正取水量となるのかも説明されていません。したがって、鹿沼市の既存の浄水場からの適正取水量が23,200m3/日であるという根拠は非常に乏しいと言えます。
鹿沼市は、既存の地下水源の取水能力をできるだけ過小に見積もるために、「冬期の取水能力を基準とする」「実績の最小値に70%を乗じた数字を適正取水量とする」という二つのトリックを使ったのではないでしょうか。
要するに、鹿沼市水道事業第5次拡張計画は、既存の地下水源を13,820m3/日も放棄する計画だったのです。放棄する理由は、「現在、適正取水量を超えて取水しているから」ということです。
●既存地下水源を放棄する本当の理由鹿沼市が既存の地下水源を放棄する本当の理由は何でしょうか。 それは、ダムによる表流水の取水量が既に決まっていたからだと思われます。
鹿沼市が東大芦川ダムを利用して0.2m3/sを取水するということは、1996年の第5次拡張計画策定時に検討して決めたのではなく、その13年前の1983年に既に決まっていました。第5次拡張計画では、東大芦川ダムからの取水量0.2m3/sを既定の数値として扱っています。
すなわち、栃木県が作成した「昭和58年度 大芦川総合開発事業 東大芦川ダム実施計画調査実施認可設計書」の中に「建設の目的」として「鹿沼市に水道用水として17,280m3/ 日を取水可能ならしめる。」と書かれています。
そのとき、鹿沼市がなぜ17,280m3/ 日の表流水を必要とするのかの根拠は検討されていないと思われます。仮に検討されていたとしても、13年ぶりの検討結果とピタリと一致するのは不自然です。
鹿沼市は、「地下水で足りない分をダムに頼る」という発想ではなく、「始めにダムの水を0.2m3/s使う」という前提の下に第5次拡張計画を策定したと思われます。
鹿沼市は、計画給水量を2010年に50,500m3/日としました。既存の地下水源に新規地下水源とダムからの取水量を加えれば、日量65,400m3にもなり水源が余ってしまいます。
「鹿沼市はどうして過剰に水源を確保するのか」という市民からの批判をかわすには、新規水源の確保量を減らすか、既存の地下水源を放棄するか、どちらかを選ぶ必要があります。
ダムからの取水量は減らしたくない、南押原の井戸も掘りたい、となると、既存の地下水源を放棄するしかつじつまを合わせる方法がありません。そこで既存の地下水源を放棄する理由が必要になったということではないでしょうか。
その表向きの理由が「冬季の取水実績の70%が適正取水量である」ということでは、あまりにも科学性に欠けるし、水資源機構から鹿沼市が毎年度受け取っている5,000万円の水源対策費の使い道にも困るから、「地下水調査でもやろうか」ということになったのではないでしょうか。