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識者はどう見るか(水谷正一教授)

鹿沼市が2001年度から2003年度にかけて実施した地下水調査について利水の専門家である水谷正一宇都宮大学教授(農学部農業環境工学)にダム反対鹿沼市民協議会役員がお話をうかがいました(2004年11月)。




(質問者)
 今回の鹿沼市地下水調査の最終報告書をご覧になって疑問に思われた点がありますでしょうか。

(水谷)
 モデルの構造に不明な点があります。図3−4で地下水から揚水され水田タンクへ入る水量が年間約1,800万m3あるはずですが、表現されていません。工業用水・上水道用水としてくみ上げられた地下水がどこのタンクに戻るのかも表現されていません。

(質問者)
 この調査で設定したタンクモデルは単純すぎて精度に欠けるという批判もありますが。

(水谷)
 一般にモデルは単純なものほどよいと言えます。しかし、このシミュレーションモデルは、地下水からの揚水量が組み込まれていないなどの問題があると思います。

(質問者)
 ほかに問題点はあるでしょうか。

(水谷)
 水文年(計算期間)を2001年8月17日から2002年8月31日までに設定したのは疑問です。図2−1を見ると、2002年8月下旬の地下水位は、2001年8月下旬のそれに比べて、低地部では約1m、台地部では約1.5m低くなっています。2001年8月には大きな雨があり、2002年8月に雨は少ないので、それらの影響が地下水位に表れています。

(質問者)
 確かに最終報告書の表3−1モデルの基本設計では、計算期間を「平成13年8月17日〜平成14年8月31日」としていますが、図3−5には、「本調査で解析した平成13年9月〜平成14年8月の1年間」とあり、33ページにも「平成13年9月から平成14年8月の間に、鹿沼市域の地下水貯留量が減った」と書かれていますから、計算期間の始期が2001年8月17日だったのか9月1日だったのか、はっきりしませんね。始期が2001年9月1日だったとすると、始期と終期の地下水位の差は、低地部で0.8m、台地部で2.4mにもなります。

(水谷)
 シミュレーションモデルは、この地下水位に合わせて作られ、シミュレーション結果もこの地下水データに追随します。水文年をこの期間に設定するならば、地下水貯留量変化がマイナスになるのは、シミュレーションをするまでもなく明らかです。

(質問者)
 計算期間をどこで区切るかでシミュレーションモデルが決まるのですね。通常の地下水調査では、水文年はどの時期で区切って設定するのでしょうか。

(水谷)
 水文年は、1月1日から12月31日までのように雨の影響の少ない時期で区切って設定するのが普通です。遅くても田植えの準備で水が動く前の3月か4月で区切るのが一般的ですね。

(質問者)
 冬は降水量が少ないし、降っても雪ですから、河川や地下水への影響は直ちに出ないということですね。ほかにはどうでしょうか。

(水谷)
 「市街地の地下水涵養量はゼロである」というのも気になりました。「市街地」の定義や面積がはっきりしませんが、そこでの地下水涵養量がゼロであると言い切ってよいかは疑問があります。
 また、図3−5では、地表タンクの土壌貯留量は790万m3という正の値を示していますが、地表タンク側に分類されていますから、地下水貯留量としてカウントされていません。「地下水」や「土壌貯留量」の定義の問題とも言えますが、土壌貯留量は地下水としてとらえるべきかもしれません。

(質問者)
 そうとらえると、どういうことが言えるのでしょうか。

(水谷)
 報告書は、地下水収支は966万m3の赤字だとしていますが、土壌貯留量790万m3を地下水貯留量に加えると、赤字は176万m3に減ります。

(質問者)
 176万m3は、年間の地下水流出量7,992m3の2.2%にすぎず、計算誤差に収まってしまい、「年間の地下水貯留量が不足気味である」(最終報告書43ページ)と大騒ぎするほどのことではないということにもなりますね。
 ほかに気づかれた点はありますか。

(水谷)
 仮に信頼性のあるシミュレーションモデルが作成できたとすれば、そのモデルを用いて上水道水源としての地下水の揚水量を増やした場合、地下水貯留量がどのように変化するか等の計算をしてみるのが普通です。なぜか今回はそのようなことはしていませんね。

(質問者)
 ほかにこの調査に特徴的なことはありますか。

(水谷)

パラメータ(*)の同定に少なくとも1年は取らないと精度の良いモデルはできません。こうした期間を普通、「同定期間」といいます。パラメータの同定が終わった後に検証となります。検証では同定期間における計算値と実測値の誤差の大きさを吟味したり、パラメータの値が常識的な範囲にあるかを検討したり、どのパラメータが計算結果に大きな影響を与えているか(これを感度分析という)といった検討を行います。こうした結果、実用に供しても差し支えないと判断できれば、鹿沼市の地下水シミュレーションモデルが開発されたと言えます。今回の計算では、どのようにモデルの検証が行われたか判りません。

また、同定期間の結果だけを用いて地下水貯留量の変化を議論するというのは乱暴な話です。同定期間はパラメータを調整し、実用性のあるモデルを開発するのが目的ですから、計算結果は実測値に意識的に合わせることになります。その結果をもって、シミュレーションが行われたとするのは誤りといえます。

それではどうすべきか、ということですが、まずモデルの実用性が検証されたことを明示すること。その上で、モデルを他の年(前年や翌年など)に適応して地下水揚水量が地下水貯留量に及ぼす影響を確認する、地下水揚水量を変化させた場合に地下水貯留量がどのような影響を受けるのかを予測するなどのシミュレーションを行う必要があります。これが本当の意味での“シミュレーション”です。そうしたことは行われていないと思います。

(*)パラメータ・・・媒介変数。二つ以上の変数間の関数関係を直接に表示する代わりに、補助の変数を用いて、間接的に表示するとき、その補助の変数をいう。地下水調査では、透水係数、比貯留量、有効間げき率などを指す。

(質問者)
 報告書の33ページに「平成13年9月から平成14年8月の間に、鹿沼市域の地下水貯留量が減ったこと」は「上水道水源施設において冬季に水不足が発生する現状を裏付けており」と書いてありますが、そう言えるのでしょうか。

(水谷)
 先ほど説明したように、「平成13年9月から平成14年8月の間に、鹿沼市域の地下水貯留量が減ったこと」は、計算の結果そうなったのではなく、計算期間を設定した時点で観測データにより決まっていたことですから、上水道水源の水不足が起きているとしても、それは地下水収支とは関係ありません。

(質問者)
 調査では、鹿沼市の既存の上水道水源の地下水適正利用量が年間846万m3(日量23,187m3)であると算出していますが、これも地下水収支とは関係ないわけですか。

(水谷)
 上水道水源の地下水適正利用量は、各水源井戸で設定した警戒水位を基準に計算しているのですから、鹿沼市域の地下水収支とは関係ありません。

(質問者)
 長期的な地下水位の変化の傾向を無視し、ある1年間の、しかも雨の多い時期を始期と終期とする1年間を計算期間として地下水の解析を行い、その1年間の地下水収支がマイナスであるとすることにどのような意味があるのでしょうか。

(水谷)
 分かりません。

(質問者)
 お忙しいところありがとうございました。
                                

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